なぜ”損切り”ができないのか?投資判断を狂わせる心理バイアスの正体と対処法

私たちは投資や日常の意思決定において、しばしば「損切りができない」「焦って判断を誤る」といった問題に直面します。

これらの行動の背景には、心理的なバイアスや感情の影響が深く関係していると考えられます。

そこで今回は、意思決定やリスク判断の心理について研究されている大阪大学の中井先生にお話を伺いました。

大阪大学大学院 人間科学研究科 准教授の中井 宏

中井 宏
大阪大学大学院 人間科学研究科 准教授

交通心理学、安全教育学、人間工学が専門。交通安全や学校安全に関する心理学的研究を中心に、特に社会の安全に寄与しうる研究を進めている。どちらかと言うと、運転中にイライラしやすいタイプで、交差点での右折待ち中、信号の変わり目に強引に直進してくる対向車が大嫌い。イライラを「あおり運転」に繋げないための秘訣は、「俺は交通安全の専門家だ」と言い聞かせること!


この記事を読むことで、損失回避や焦りのメカニズム、後悔しづらいリスクの取り方など、より良い判断を下すためのヒントが得られます。

目次

損切りできない心理的メカニズム

BITNAVI編集部

中井先生、本日はよろしくお願いします。まず投資において”損切りができない”という行動も、不安全行動やリスクテイキングと共通する心理があるように思います。これらの判断のクセはどこから来るのでしょうか?

中井 宏氏

「損失回避バイアス」が関係すると思います。心理学者ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論によると、人は得より損の方を強く感じます。例えば、「①確実に1万円貰える」か「②2分の1の確率で2万円もらえるか、2分の1の確率で何ももらえない」という選択肢があった場合、あなたはどちらを選びますか?

BITNAVI編集部

確実に1万円もらえる方を選びたくなりますね。

中井 宏氏

そうですね。次に「③確実に1万円支払う」か「④2分の1の確率で2万円支払うか、2分の1で何も払わない」という選択肢の場合はどうでしょうか?

BITNAVI編集部

こちらは…確率に賭けてみたいかもしれません。

中井 宏氏

多くの人がそう考えます。自分がお金をもらえる場面では①を選ぶ人が、支払う場面では④を選ぶ人が多くなります。「②を選んで0円だったら損だな」とか「③だと絶対に損しちゃう」と思うからです。ですので、損失を確定させる行為(損切り)は精神的に痛いため、今後値上がりする可能性(損しない可能性)を信じて、保有し続ける傾向があるのでしょう。

BITNAVI編集部

なるほど、損失を確定させることに心理的な抵抗があるんですね。他にも理由はありますか?

中井 宏氏

また、自分が所有しているものを、そうでないものよりも価値を高く評価し、手放すことに抵抗を感じる「保有効果(エンダウメント効果)」が働くことも、損切りを避ける傾向に影響するでしょう。

良質なリスク判断の条件

BITNAVI編集部

投資では、リスクを取ること自体が悪いわけではなく、時にはチャンスを生むこともあります。心理学的には、どのような条件下で”良いリスク”がとれると考えられていますか?

中井 宏氏

心理学的には以下の状況で良質なリスク判断ができるとされます。
・感情が安定しているとき
・リスクとリターンを冷静に数値化・可視化しているとき
・自分の許容範囲(リスク許容度)を事前に把握しているとき

BITNAVI編集部

感情の安定と数値化が重要なのですね。それ以外にも何かありますか?

中井 宏氏

さらに、直感だけでなく、他者の意見や過去のデータなど、複数の視点を取り入れることで判断のバイアスを避けやすくなります。

感情が判断を狂わせるメカニズム

BITNAVI編集部

リスクを取るとき、冷静な判断が必要ですが、感情が先行すると失敗することもあります。特に投資では”焦り”や”欲望”が判断を狂わせるケースもありますが、そうしたメカニズムについて教えてください。

中井 宏氏

感情と理性は、脳内で扁桃体(感情)と前頭前野(理性や論理的思考)が密接に関わっているとされています。強い欲望や焦りは扁桃体を刺激しますが、このとき前頭前野の抑制機能を一時的に下げてしまいます。このような状態では、短期的な報酬に目がいきやすく、長期的な損得の冷静な判断がしにくくなる可能性があります。

BITNAVI編集部

感情によって理性の機能が低下するんですね。それは日常的にも起こりうることでしょうか?

中井 宏氏

そうですね。また人間には、将来の利益よりも目先の利益を優先してしまう現在指向バイアスというものもあります。来月もらえる10万円よりも、今すぐもらえる8万円を好む人もいるかもしれませんね。

後悔しづらい判断の方法

BITNAVI編集部

投資でも日常でも、”あのときこうしておけば…”という後悔がつきまといます。中井先生のご研究から、後悔しづらいリスクの取り方や判断法があればぜひ教えてください。

中井 宏氏

後悔というと結果が出た後に感じるものという印象がありますが、意思決定の研究では「予期後悔」という概念が知られています。これは、意思決定の前に「もしこの選択で失敗したら、どれだけ後悔するだろう?」とあらかじめ考えることで、選択行動が変わるというものです。

BITNAVI編集部

なるほど、事前に後悔を想像するんですね。具体的な例はありますか?

中井 宏氏

たとえば、コンビニの前で自転車を止めるとき、「鍵をかけずに盗まれたら、どれだけ後悔するか」を想像することで、施錠の行動が促されます。同様に、「大地震が起こった際に備えをしていなかったらどれだけ後悔するか」という予期後悔が、防災意識を高めるきっかけにもなります。

BITNAVI編集部

投資の場面でも使えそうな手法ですね。ビジネスでも似たような考え方はあるのでしょうか?

中井 宏氏

ビジネス場面だと、プレモータム・シンキングという言葉を聞いたことがある人がいるかもしれません。これは、あるプロジェクトが「失敗した」と仮定し、その原因を先に洗い出して対策を立てておくというアプローチです。「失敗は成功の母」とはよく言いますが、失敗が許されない場合もありますよね。実際の失敗を避けるために、頭の中であらかじめ多くの失敗を経験しておくわけです。投資の場面でも使えるかもしれませんね。

まとめ:心理バイアスを理解し、より良い投資判断を

今回のインタビューでは、大阪大学大学院の中井宏准教授に、投資判断を狂わせる心理バイアスについて詳しく解説していただきました。

私たちが「損切り」に抵抗を感じるのは、損失回避バイアスや保有効果といった心理メカニズムが働いているためだということが分かりました。また、感情が安定し、リスクとリターンを可視化し、自分のリスク許容度を把握している状態こそが、良質なリスク判断ができる条件であることも教えていただきました。

特に注目すべきは「予期後悔」の考え方です。決断の前に「この選択で失敗したらどれだけ後悔するか」を想像しておくことで、より慎重かつ適切な判断ができるようになります。投資においても、事前に最悪のシナリオを想定し対策を立てておく「プレモータム・シンキング」は有効なアプローチといえるでしょう。

私たちの判断は常に様々な心理バイアスの影響を受けています。それらのメカニズムを理解し、対策を講じることで、より良い投資判断や人生の選択ができるようになるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

BITNAVI代表の中本さとしです。
5年前から海外の仮想通貨取引所で仮想通貨FXを行っています。特にビットコインFXが得意です。
当メディアでは、これまで培ってきた知識や経験を余すことなく情報として発信します。
仮想通貨や海外取引所に興味がある方は、ぜひ参考にしてくださいね。

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