2024年のビットコイン価格は大きく変動し、特に3月と11月に急上昇しました。
これには、ビットコイン半減期やトランプ大統領の再選といった要因が影響しています。
こうした種々の出来事をきっかけに、ビットコインに興味を持ち始めた方は多いのではないでしょうか。
そこで専修大学経済学部のOGAWA先生に、2024年のビットコイン価格の推移の振り返り、その変動要因の分析、さらに2025年の価格動向について考察していただきました。
なお、今は仮想通貨を「暗号資産」と呼ぶのが一般的ですが、ここではなじみのある仮想通貨と呼びます。

小川 健
専修大学 経済学部 教授
理学部(旧数学科)から大学院より経済学に移る。2011(平成23)年3月博士(経済学、名古屋大学)。現在の担当は、国際経済論、資源・エネルギー論、数学補充科目、貿易論など。専門は近経貿易理論、水産物貿易(理論)、暗号資産教育、経済学教育におけるICTの活用など。貿易論に限らずマルチに活動。2015(平成27)年4月より現在の大学に移る。教育の工夫の一環として国際金融の講義に暗号資産教育や外貨建て保険等を取り入れてきた。
2024年のビットコイン価格変動を振り返る

OGAWA先生、2024年のビットコイン価格は大きく変動しましたが、まずはその推移について教えていただけますか?



トランプ大統領の再台頭が最大の要因ということは言えるでしょうが、それだけでは説明にはなりません。まずは価格の推移を見ていきましょう。CoinGeckoの図を使います。





2024年の頭頃は600万円前後だったのが、1000万円前後の時期を挟んで年末には1500万円を超えるあたりまで届いていることが分かります。



その価格変動を見る際の注意点はありますか?



通常ビットコインの価格の推移を説明するときは日本円でなく米ドルで説明します。日本円は馴染み深いものですが、日本円と米ドルの関係もこの間推移しますので、効果が重なり合った形になってしまう可能性があるからです。ただし、2024年においては米ドルでも主な傾向は割と近しく、3月くらいと11月くらいに2度大きく上がったことが分かります。





2024年の価格変動に影響を与えた主な要因は何だったのでしょうか?



2024年のBTC価格変動に関してとりわけ大事な点として、短期的なプラスの影響として「SECゲンスラー委員長退任」と、中長期的なプラスの影響として「ビットコイン現物ETF承認」、そしてアノマリーとしての「ビットコイン半減期」を取り上げることができます。3月くらいの大きな要因がアノマリーとしてのビットコイン半減期、11月くらいの大きな要因がトランプ大統領再選という形になります。



興味深い分析ですね。4月から10月にかけての期間はどのような動きだったのでしょうか?



2024年の4月1日から10月31日までの米ドル建てビットコイン価格を分析すると、実はやや下がっている傾向が見られます。Investing.comの営業日毎の終値を使って見てみましょう。







これは特筆すべきことで、2024年全体的に見るとビットコイン価格は上がっているから「いつも上がっていた」ように感じていたかもしれませんが、実はその間は上下を繰り返しながらじりじり落ちていたことになります。
トランプ大統領再選がビットコイン価格に与えた影響



11月頃の大きな上昇は、トランプ大統領再選の影響が大きかったとのことですが、具体的にはどのような要因があったのでしょうか?



はい。第1次トランプ政権時の彼は決して仮想通貨の支持者という訳ではなく、どちらかというと毛嫌いしている様子さえ見受けられました。しかし、2020年の大統領選での敗北を経て、今回の大統領選では仮想通貨業界の支持を取り付けて再選されました。その再選が「確定した」ことが大きな影響を与えたのです。



では、なぜ仮想通貨業界はトランプ氏を支持したのでしょうか?



それはバイデン政権における「SEC(証券取引委員会)ゲンスラー委員長」の存在を抜きにして語れません。仮想通貨業界はまずゲンスラー委員長の解任・退場を望んでいました。民主党の大統領選候補者はバイデン大統領からハリス副大統領に選挙期間中に変わりましたが、どちらもバイデン政権の要人であることには変わりありません。



ゲンスラー委員長は仮想通貨業界に対してどのような姿勢を取っていたのですか?



ゲンスラー委員長は仮想通貨を不要なものと考え、リップル社をはじめ数多くの仮想通貨業界関係者へSEC委員長の立場で訴訟を起こしていきました。その中にはかなり無理なものもありました。そういうゲンスラー委員長が去ることが確定すれば、仮想通貨の代表格であるビットコインの価格も上がるという効果につながったのです。



つまり、業界にとって推進への期待が高まったということですね。3月頃の上昇については、どのように分析されていますか?
ビットコイン半減期がもたらした市場への影響



3月頃の上昇は、一般的に説明するとしたらアノマリー(理由を説明しにくい経験則)であるビットコイン半減期の影響と思われます。アノマリーは「理由が分からないがこれまでは起きてきたこと」という部分があり、次も同じことが起きるとは限りません。



なぜアノマリーと呼ばれるのでしょうか?



「確実に値上がりすることが分かっている」場合には、あなたより先に買う人間は確実に現れます。そのため、市場に現れる頃にはそうしたうまみ(鞘取り)は全て取り終わった状態で現れます。これを市場価格に関する「無裁定条件」と言い、これは「値上がりする有意な傾向が分かっている」場合も同様の部分があるのです。



半減期による価格上昇の理論的な説明は可能なのでしょうか?



よく言われる説明は「新規採掘量が半分になるので、市場に出回る量が減るから価格が上がる」というものです。しかし、これは「新規採掘分の多くが市場に出回るが、既存採掘分での市場に出回る量はあまり大きく変わらない」ことが確定する場合に限られます。ビットコインは金(Au)と違い、「金細工等で使用中だから市場に流せない」ということはなく、ほぼ全ての部分が市場に流れる予備軍としての側面があります。



それでも価格が上昇した理由は何でしょうか?



株価でも言えることですが、市場がうまく機能するのは「不合理な参加者がいるから」という説もあります。アノマリーが「今回も成り立つだろう」と考えて需要が高まっていけば、それだけ価格が上がっていく部分はあるのです。今回はたまたまそういうことが成り立った、つまりアノマリーを信じて購入した人が一定程度いたということです。
ビットコイン現物ETF承認の市場への影響



2024年の価格変動要因として、現物ETFの承認も挙げられましたが、これはどのような影響があったのでしょうか?



中長期的な影響として、ビットコインの現物ETF(上場投資信託)がUSAで2024年頭に認められた点は重要です。これはSECゲンスラー委員長が当初かなり渋っていた部分でしたが、2023年の裁判で認めないことがNGとなってから認められるようになりました。



現物ETFと先物ETFの違いについて教えていただけますか?



現物をETFに組み込む現物ETFと為替リスクを回避するために将来の価格を確定させておく先物をETFに組み込む先物ETFがあり、現物ETFの方が規模は大きくなるだろうということが当時から言われていました。ビットコインを現物ETFに組み込めるようになって、ビットコインを直接買うのはちょっと…という個人及び機関投資家の参入も期待できる状況になったのです。



実際の効果はどうだったのでしょうか?



興味深いことに、4-10月の間においてビットコイン価格は回帰分析での傾きが営業日の推移に対し有意に負でした。これはビットコイン現物ETFの承認が「2024年の」ビットコインの価格形成において重要な役割を果たしたわけではないことを示しています。とはいえ、2024年12月1日付の日本経済新聞の記事では「3月末比で2割増え1,200社を超えた」ことが報告されており、ETFそのものの利用は着実に進んでいたことが分かります。



半減期の影響との関連はありましたか?



半減期のアノマリーは通常「上がりっぱなし」ではなく、価格高騰は一時的で「下がる」部分があります。その傾向、つまり「ビットコイン半減期のアノマリーの効果が切れた」価格下落の影響はあったのではないかと考えられます。
2025(令和7)年のBTC価格推移についての仮説



2025年のビットコイン価格について、どのような見通しをお持ちでしょうか?



本来、価格推移予測に関しては経済系の教員よりはアナリストの方が圧倒的に詳しいので、あくまで私が言える範囲でお話しします。少なくともトランプ大統領の言動にビットコインの価格が振り回される状況は2025年も続くでしょうから、値動きの荒い状況は続くものと思われます。



トランプ政権の政策についてはどのようにお考えですか?



トランプ大統領の就任早々の大統領令で「すぐにビットコインの戦略的準備金の蓄積を始めなかった」ことが一部市場関係者の失望を買ったという報道も出ています。また、トランプ大統領は「デジタルな国家資産」としてUSA製の仮想通貨を組み合わせた形を検討したいとの報道も出ており、本当にビットコインを強く推そうとする状況が続くとは限らない点には注意が必要です。



SECの方針転換による影響はどうでしょうか?



SECゲンスラー前委員長が起こした訴訟の中にはかなり無理をしたものも含まれていて、SEC委員長が変わった以上このような訴訟を続けることは仮想通貨の推進という第2次トランプ政権での在り方とは相容れません。こうした無意味な訴訟は早々と和睦や訴訟取り下げなどの措置が取られ、その成立時に価格上昇の動きは見られるでしょう。



価格下落のリスク要因はありますか?



私が心配するのは「トランプ大統領とイーロン・マスク氏との仲違い」です。トランプ大統領就任時の大統領令の中でAI推進関係の大統領令があり、マスク氏が公然と批判をしたことが知られています。第2次トランプ政権では閣僚の選出方法としてトランプ大統領への忠誠心を基準にした説があるだけに、「本当に1年も関係が続くか」という部分を疑っています。



長期的な価格変動パターンについてはいかがでしょうか?



過去のビットコインの価格変動を見ると、大きく上がった後にかなりの暴落が見られる状況があります。例えば2017年に1年で約20倍という値上がりの後、2018年には当時の最高値から約1/5まで値下がりしました。2021年の値上がりの後にも2022年には当時の最高値から約1/3まで値下がりしています。アノマリーに頼りたくはないのですが、急な値下がりの可能性には備える必要があるでしょう。
まとめ:2025年のビットコイン投資に向けて



最後に、2025年のビットコイン投資について、投資家が注意すべきポイントをまとめていただけますか?



暗号資産運用企業Bitwiseのマット・ホーガン最高投資責任者によると、ビットコインの年間での上がり下がりには4年の周期があり、2025年には上がるが2026年には調整(下がる)が予想されています。ただし、これは半減期を理由としたものではなく「よく言われる経済的な周期が仮想通貨の価格変動を増幅させている動き」と説明されています。



投資家はどのような点に気をつけるべきでしょうか?



まず、第2次トランプ政権の政策動向を注視する必要があります。また、SECの方針転換による規制緩和の影響、そして政治的な人間関係の変化による市場心理への影響なども重要な要因となるでしょう。さらに、ビットコイン現物ETFの普及による長期的な影響も徐々に顕在化してくる可能性があります。
本インタビューでは、2024年のビットコイン価格急騰の背景と、2025年の展望について、政治的要因から市場構造の変化まで、幅広い観点からOGAWA先生に解説していただきました。
ビットコイン投資を検討される方々にとって、本稿が投資判断の一助となれば幸いです。
なお、本記事は投資助言ではありません。投資はご自身の判断と責任で行うようお願いいたします。
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