仮想通貨トレードを強化するモメンタム効果とは? 投資戦略の新たな可能性

仮想通貨市場は、価格の変動が大きく、トレーダーは短期間で利益を狙うことが一般的です。

多くのトレーダーは、テクニカル分析を駆使し、短期売買を繰り返すことでリターンを狙います。

その中でも、トレンドフォロー戦略やブレイクアウト戦略が広く採用されており、価格の動きを見極めながらエントリーとエグジットのタイミングを測る手法が主流です。

しかし、これらの戦略に加えて「モメンタム効果」を考慮することで、より効果的な投資戦略を組むことが可能になります。

モメンタム効果とは?

モメンタム効果とは、過去に高いリターンを示した銘柄が今後も高いリターンを示す傾向があるという市場の特性を指します。

これを活用することで、仮想通貨トレードにおいても有利なエントリーやリスク管理が可能となり、パフォーマンスの向上が期待できます。

BITNAVI編集部

そこで、モメンタム効果の詳細について深く理解するために、玉川大学の岩永先生にご説明いただきました。

岩永 安浩 

玉川大学 経営学部 准教授

住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)等を経て、2024年4月より現職。京都大学博士(経済学)。主な論文に”An empirical study of the contrarian strategy against US equities in the Japanese market”(Journal of Investment Strategy, 2023)、”Revisiting the residual momentum in Japan”(International Review of Financial Analysis, 2024)などがある。


本記事では、モメンタム効果の理論とその投資戦略への応用について解説していきます。


目次

モメンタム効果とは

BITNAVI編集部

まずモメンタム効果とは何でしょうか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果とは、過去に相対的にリターンが高かった銘柄のその後のリターンが、過去に相対的にリターンが低かった銘柄のそれよりも高いという現象です。

BITNAVI編集部

具体的にお願いします!

岩永 安浩氏

具体的には、ある時点で過去のリターンが高かった銘柄群と低かった銘柄群に分けると、その後のリターンは、前者の銘柄群が後者よりも高い傾向にあるということです。この現象がモメンタム効果です。

BITNAVI編集部

なるほど!非常に分かりやすい説明をありがとうございます!

岩永 安浩氏

過去のリターンとしては、通常、過去6ヶ月から12ヶ月の間のリターンが用いられますが、その他の期間のリターンを基にするアセットクラスもあります。例えば、為替市場では、過去3カ月のリターンを用いるのが学術的にスタンダードとされています。

BITNAVI編集部

モメンタム効果について、もう少し理論的な観点から教えていただけますか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果が観測されるということは、過去に相対的にリターンが高かった銘柄はその後も相対的にリターンが高く、逆に過去に相対的にリターンが低かった銘柄はその後も相対的にリターンが低い傾向があることを意味します。理論的には、銘柄間のリターン格差は市場全体に対する連動を示すベータ(β)だけで説明できるとされています。つまり、銘柄間のリターンの違いはベータの差によるものであり、それ以外の要因では銘柄間にリターン格差は生じないと考えられています。そのため、過去のリターンに基づいて特徴的なリターン格差が観測されるモメンタム効果は、理論に反する現象(アノマリー)とされ、学術界のみならず実務の世界でも注目を集めています。

BITNAVI編集部

大変興味深いですね。モメンタム効果には、どのような種類があるのでしょうか?

岩永 安浩氏

このモメンタム効果には、「クロスセクション・モメンタム効果」と「タイムシリーズ・モメンタム効果」の2つの種類があります。タイムシリーズ・モメンタム効果とは、単一の銘柄において、ある時点で過去のリターンがプラスであればその後のリターンもプラスになり、過去のリターンがマイナスであればその後のリターンもマイナスになる傾向がある現象です。例えば、最近の研究では、イントラデイでタイムシリーズ・モメンタム効果が確認されています。具体的には、取引開始後30分間のリターンがプラス(またはマイナス)であった場合、その後の取引終了前30分間のリターンもプラス(またはマイナス)となる傾向があることが報告されています。

BITNAVI編集部

2つの効果の違いはどこにあるのでしょうか?

岩永 安浩氏

クロスセクション・モメンタム効果が複数の銘柄間での相対的なリターン格差に着目しているのに対し、タイムシリーズ・モメンタム効果は、単一の銘柄の絶対的なリターンに焦点を当てた現象である点が異なります。タイムシリーズ・モメンタム効果を活用した戦略は、トレンドフォロー戦略とも呼ばれ、チャートを利用する個人投資家や、Managed Futures(マネージド・フューチャーズ)と呼ばれるヘッジファンドで採用されています。一般的には「モメンタム効果」といえばクロスセクション・モメンタム効果を指すことが多いため、以下ではクロスセクション・モメンタム効果について解説します。

BITNAVI編集部

モメンタム効果の逆の現象もあると聞きましたが。

岩永 安浩氏

はい、モメンタム効果とは真逆の現象として、リバーサル効果という現象が観測されることも知られています。リバーサル効果とは、過去に相対的にリターンが高かった銘柄のその後のリターンが、過去に相対的にリターンが低かった銘柄のそれよりも低くなるという現象です。一般的に、リバーサル効果は過去1カ月間のリターンや、36カ月以上の長期間のリターンに対して観測されます。つまり、短期間または長期間のリターンにおいてはリバーサル効果が、中期間のリターンにおいてはモメンタム効果が観測されることが、これまでの研究から分かっています。

モメンタム効果が最大限に発揮される諸条件

BITNAVI編集部

具体的に、どのような市場でモメンタム効果が観察されているのでしょうか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果は、まず米国の個別株式で観測されることが報告されました。また、個別株式だけでなく、業種単位で分析してもモメンタム効果が確認されています。その後、米国の株式市場にとどまらず、世界各国の株式市場でもモメンタム効果が有効であることが確認されました。しかし、多くの国でモメンタム効果が観測される中、日本の株式市場では統計的に有意なモメンタム効果は観測されませんでした。日本のほかにも、韓国、台湾、トルコなどではモメンタム効果が弱いことが報告されています。

BITNAVI編集部

なぜ日本などの市場ではモメンタム効果が弱いのでしょうか?

岩永 安浩氏

これらの国々では、個人主義ではなく集団主義の文化が、モメンタム効果の弱さの原因であると考えられています。また、自信過剰や自己責任バイアス(成功を内的要因に帰し、失敗を外部要因に帰す傾向)が小さいことが、モメンタム効果が有効でない背景にあるという議論もあります。近年、モメンタム効果は個別株式にとどまらず、さまざまなアセットクラスでも観測されることが報告されています。具体的には、国別株式、債券、為替、コモディティなどでもモメンタム効果が有効であることが確認されています。

BITNAVI編集部

それぞれのアセットクラスでの効果の違いはありますか?

岩永 安浩氏

個別株式、国別株式、コモディティでは、比較的長期間にわたってモメンタム効果が有効であることが確認されています。一方、債券ではモメンタム効果は比較的有効ではなく、また、為替についてもここ数年の間、モメンタム効果が有効ではなくなっています。

BITNAVI編集部

モメンタム効果が生じる理由について、どのような説明がされているのでしょうか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果が観測される理由は、伝統的なファイナンス理論では説明できないため、非合理的な投資家を想定する行動ファイナンス理論で説明されることがあります。行動ファイナンスによる説明では、投資家が新しい情報が自らの見解と対立しない場合には自信を深め、対立する場合でも自らの見解を徐々にしか修正しないことが、モメンタム効果の有効性に結びついているとされています。また、ニュースのみに依存して投資する「ニュース・ウォッチャー」と、過去の値動きのみに依存して投資する「モメンタム・トレーダー」の2つのグループが市場に存在するという議論もあります。ここでは、ニュースが時間をかけて拡散する場合、ニュース・ウォッチャーによる過小反応が生まれ、その結果、価格の動きに自己相関が生じます。この自己相関がモメンタム・トレーダーの注意を引き、過剰反応を引き起こすことで、モメンタム効果が生まれると主張されています。

BITNAVI編集部

市場の状況によって、モメンタム効果の強さは変化するのでしょうか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果が強い期間と弱い期間について分析した研究がいくつか存在します。それらの研究では、モメンタム効果の有効性は市場全体の状況によって異なることが報告されています。例えば、市場全体の過去のリターンが高かった後にはモメンタム効果が強く、低かった後には弱いとする論文があります。一方、市場全体の局面が継続した場合にはモメンタム効果が強く、反転した場合には弱いという結果も報告されています。具体的には、過去がブルマーケット(上昇相場)で現在も市場全体が上昇している場合、または過去がベアマーケット(下落相場)で現在も市場全体が下落している場合にはモメンタム効果が有効です。これは、過去にブルマーケット(またはベアマーケット)だった場合、投資家が強気(または弱気)な投資姿勢を取っており、市場全体の上昇(または下落)が続くことで、そのポジションに自信を深めるためだと解釈されています。

BITNAVI編集部

市場の方向転換時には、どのような傾向が見られるのでしょうか?

岩永 安浩氏

逆に、過去がブルマーケットで現在は市場全体が下落している場合、あるいは過去がベアマーケットで現在は市場全体が上昇している場合には、モメンタム効果は有効ではないことが報告されています。特に、過去がベアマーケットで現在は市場全体が上昇している場合には、モメンタム効果が著しくマイナスであることが知られています。この現象について、ベアマーケットにおいて過去のリターンが低かった銘柄群は、企業価値に対してアウト・ザ・マネーのコール・オプションの性質を持っており、モメンタム効果はコール・オプション売りの性質を持つためだと主張する研究もあります。

BITNAVI編集部

景気サイクルとの関係についてはどうでしょうか?

岩永 安浩氏

景気サイクルによってモメンタム効果の有効性が異なるという議論もあります。これによれば、景気拡大期にはモメンタム効果が有効であり、景気後退期にはその有効性が低くなるとされています。また、リターンディスパージョン(クロスセクションのリターンの標準偏差)がモメンタム効果と関連していることも報告されており、リターンディスパージョンは将来のモメンタム効果と負の相関関係があるとされています。

投資初心者がモメンタム効果を活用しやすい投資

BITNAVI編集部

投資家がモメンタム効果を実践的に活用するには、どのような方法がありますか?

岩永 安浩氏

まず、多くの株式市場では、短期・長期でリバーサル効果が、中期でモメンタム効果が観測されることを理解しておくことが役立ちます。つまり、過去1カ月間または過去36カ月以上の期間で相対的にリターンが低かった銘柄群、あるいは過去6~12カ月間で相対的にリターンが高かった銘柄群は、将来、相対的にリターンが高くなる(アウトパフォームする)可能性があるということです。したがって、これらの銘柄群から投資対象を選ぶことが考えられます。投資において「逆張り」や「順張り」という言葉を耳にすることがありますが、短期間や長期間には逆張り戦略が、中期間には順張り戦略が有効である可能性があることを意味しています。

BITNAVI編集部

より具体的な投資戦略について教えていただけますか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果を直接投資戦略に応用する方法があります。それは、過去6~12カ月間に相対的にリターンが高かった銘柄群を買い持ち(ロング)し、相対的にリターンが低かった銘柄群を売り持ち(ショート)する戦略です。具体的には、S&P500採用銘柄をユニバースとした米国株式を例に説明します。毎月末に、S&P500に採用されている銘柄を過去6カ月(または12カ月)のリターンが高い順に並べます。そして、上位1%の5銘柄を買い持ちし、下位1%の5銘柄を売り持ち(空売り)します。1カ月後にポジションをクローズし、同じ手順を繰り返します。この取引を毎月行うことで、モメンタム効果を投資戦略の損益に反映させることができます。モメンタム効果が有効であれば、この戦略の損益はプラスとなり、逆に有効でなければマイナスになります。

BITNAVI編集部

個人投資家の場合、空売りのコストが課題になりそうですが、何か対策はありますか?

岩永 安浩氏

個別株式で空売りを行うにはコストがかかるため、個人投資家が実行する場合、利益が上回らない可能性もあります。その場合、上位1%の5銘柄を買い持ちし、同額分のS&P500指数先物を売り建てることで、モメンタム効果をポートフォリオの損益にある程度反映させることができます。一般的に、先物を売り建てるコストは個別株式を空売りするコストよりも低いため、コスト面で有利です。モメンタム効果はこのようなシンプルな戦略で活用できるため、非常に有用です。機関投資家は、ルールに基づき機械的に取引を行うクオンツ戦略を採用することがありますが、その中でもモメンタム効果は古くから利用されています。

BITNAVI編集部

他の資産クラスでも同様の戦略は応用可能でしょうか?

岩永 安浩氏

国別株式、債券、為替、コモディティでも、個別株式と同様の方法でモメンタム効果を投資戦略に利用することは可能です。ただし、前述の通り、債券ではモメンタム効果の有効性があまり高くなく、為替ではここ数年間モメンタム効果がマイナスであるため、モメンタム効果を活用するメリットは低いと考えられます。また、国別株式やコモディティを投資戦略に組み込むには先物を利用する必要がありますが、世界各国の指数先物やコモディティの先物を個人で扱うことは難しい場合があります。そのため、個人投資家がモメンタム効果を投資戦略に利用するのは、現実的には個別株式に限られるかもしれません。

最後に

BITNAVI編集部

最後に、モメンタム効果をより効果的に活用するためのアドバイスをいただけますか?

岩永 安浩氏

モメンタム効果をより効率的に捉える方法を紹介します。モメンタム効果が有効な期間とそうでない期間は、ある程度予測できる可能性があります。例えば、市場全体の過去のリターン、景気サイクル、リターンディスパージョンなどに基づく予測方法が、いくつかの先行研究で報告されています。これらの先行研究を参考にして、モメンタム効果が有効な期間とそうでない期間を予測し、有効であると予測された期間にのみ、上述の投資戦略を実行することで、より効率的にモメンタム効果を活用し、リターンを獲得できます。モメンタム効果は時に大きなマイナスの影響を及ぼすことが知られています。常にモメンタム効果を利用した投資戦略を実行していると、そのような時に大きな損失を被るリスクがあります。したがって、モメンタム効果が有効である場合に限定して投資戦略を実行し、大きな損失をいかに回避するかが重要となります。モメンタム効果の有効性を予測することは簡単ではありませんが、それを利用した投資戦略には大きなメリットがあるため、現在も研究が進められているテーマです。

本インタビューでは、モメンタム効果の理論的背景から実践的な投資戦略まで、幅広い知見を岩永先生に解説していただきました。

投資家にとって、このモメンタム効果の理解と適切な活用は、より効果的な投資戦略の構築に貢献する可能性があります。

この記事を書いた人

BITNAVI代表の中本さとしです。
5年前から海外の仮想通貨取引所で仮想通貨FXを行っています。特にビットコインFXが得意です。
これまで培ってきた知識や経験を余すことなく情報として発信します。

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